はじめて会った時のことを、今も時々思い出します。
3歳児にしてはかなり大きな体で、目がくりくりっとしていて周囲を良く観察していました。
わたしもその園に勤務したばかりで、お互いに慣れない園生活。
信頼関係がなかなか結べなかったある日、特別支援学校のT先生と巡回で出会いました。
支援が必要だったのは、Fくんだけではありませんでした。
T先生は来るたびに、Fくんとわたしの気持ちに寄り添ってくれました。
そして、関係性を変えるための方法を教えてくれました。
自閉症児保育|走る(逃げる)のを追うという悪循環を変える方法
それまではFくんが逃げる→それをわたしが追いかけるという図だったものが、一緒に移動するという形に変化して、そのうち手を引っ張られて一緒に行こうと誘われるようになっていきました。
水へのこだわり
Fくんのこだわりは、家から着てきた洋服は脱がない。
食事は白米・肉・魚のみ。
水が大好きでいくらでも触っていたい。
出している水がもったいないので「そろそろおしまいにしましょう」と言っても、蛇口を閉めることが出来ません。もっと遊びたいんだよね~。
分かるけれどずっとは困るしどうしよう…と途方にくれているときには、水を止める方法をT先生が教えてくれました。
自閉症児保育|水が大好きで止められない!こだわりとのつき合い方
無理やりなにかをさせることはパニックを起こすし、信頼関係にヒビが入ってしまいます。
一瞬で変わる効果があるものってほとんどなかったのですが、少しずつ変わるために大切だったのはやっぱり関係性でした。
唾吐きが始まる
Fくんと関係性ができてきたことを実感し始めていたある日始まって唾吐きは衝撃的でした。
唾は顔面に向かって吹き付けられました。
気持ちがドーンと落ち、精神的に不安定になりました。
仕事を終えて、小学生だった息子の迎えに車で向かいながら、窓を開けて叫んだりして気持ちを切り替えていました。
昼寝ができない
自閉症児は「起きる」と「寝る」の間の、曖昧な時間が苦手です。
眠いけれど、体を揺らして自らを叩き起こすような行動がみられました。
寝ることを目標にはせずに、体を休ませる時間を取ることを目指しました。
わたしが10~20分の休憩中は他の先生が代わりに保健室でFくんと過ごしました。
Fくんに対して好意を持っていない先生の日には、その時間ずっとつばを吐かれたようです。
相手が自分に対してどう思っているのか、隠そうとしても見えてしまう。
障害のある子は、人間の本質を見抜く力が研ぎ澄まされているのだと思います。
自閉症児の成長過程
他の子と比べたら成長はゆっくりかもしれません。
でも、Fくんの成長を数えきれないくらいたくさん見ることができました。
- パニックになる回数の変化
- 身振り手振りで気持ちを伝えようとする
- 単語がでてきて、言葉で伝えようとする
- 野菜を少しだけ食べられるようになった
- 悲しい時に壁にぶつからずに、誰かに抱き着いて悲しみを共有しようとする
大きな大きな成長です。
「センセ」と呼んでくれたときの感動は忘れられません。
自閉症は治ると信じていた母
Fくんのお母さんは、自閉症は治ると信じていました。
何度か「うちの子はいつになったら、普通の子になりますか」と聞かれました。
自閉症は生まれつきの障害で、病気ではありません。
周囲の働きかけや環境で、特性を目立たなくしたり、生活の中へ活用する方法を探します。
病院で診断を受けて、療育へ通い始めてから、少しずつお母さんはFくんを受容し始めました。
それでもFくんの行動がワガママに見えてきつく叱ることもあったようです。
それは自閉症であってもなくても同じですよね。
Fくんとともに、お母さんとお父さんの変化を大きく感じました。
卒園式に参加する?しない?
「Fくんの卒園式参加をどうするか」
そんな議題が出たこと自体が不信感でいっぱいでした。
卒園式はFくんのためでもあって、他の子のためでもあるからと…。
もちろんそれを否定する気はありません。
でも、どうやったら参加が出来るのかを先に考えて欲しかった。
最終的には、Fくんの出番までは別部屋で待機をして、会場に入る時には母が隣に座るということになりました。
わたしは非正規職員のため、卒園式の日の時給は出ません(園や市町村によります)。ボランティアとしてなら参加可能と言われました。
Fくんがいつもと違う環境に戸惑う姿は、安易に想像出来ました。
ボランティアとして式に参加しました。
会場にいたのは、卒園証書をもらうほんの少しの時間でした。
無事に証書を受け取った時は、嬉しさとホッとした両方の気持ちがありました。
Fくんは特別支援学校へ進みました。一度見学に行ったことがあります。背は伸びてたくましく、少しほっそりしていました。
大変だったこと
- 関わり方が分からない
- つねる、押す、唾を吐くなどの行動に対しての対応
- 同僚や園長の理解や連携
- 外遊びの時間が長く、休憩をしないので体力面がつらい
- 自分の精神状態の安定
一緒に過ごした2年半、仕事を辞めたいと思った回数は数えきれないかもしれません。本当にダメな先生です。
でも、辞めなくて良かった。Fくんとの生活で学んだことは、その後のわたしに大きな影響を与えています。
出会えたことに感謝しています。
乗り越えるために力を貸して下さったT先生にも改めて感謝致します。
どうしたら大変ではなかったかを考えると、自分も含めてたくさんの人が自閉症児の名前ではなくて特徴を知ることだと思います。
