わたしを成長させてくれることになるFくんとの出会いは、平成20年7月でした。
その日からFくんが卒園する23年3月までの2年8か月、加配保育士として関わりました。
加配と保育補助の違いやFくんわたしのスタートについて書きます。
加配とは?
補助:クラス全体を見ながら、その時々に困っている子に手を差し伸べます。
加配:生まれつきの発達障害などで、他児と同じように保育園の生活を送ることが難しいお子さんに配慮を加え、生活を支える役割を担います。
発達障害児に対応できる保育士は少ないという現実
入園してすぐに、専門機関で知的障害発達障害と診断されたFくん。
言葉はほぼオウム返しでした。要求は指さし。
自分の欲求や思いが通らないことがあるとパニックになり、奇声を発しました。
体が大きく人や物への体当たりもあり、目が離せない状況でした。
加配になった当時のわたしは自閉症の名前と特徴は知っていたものの、自閉症児とどう関わったらよいのか分かりませんでした。
Fくんの加配の前にはダウン症児の加配を、その前にも発達障害児との関わりの経験があり、どうにかなるかなと思っていました。
発達障害専門の機関を併設していない保育園や幼稚園で、発達障害の子の補助や加配に当たるのは、パート保育士やパート幼稚園教諭の場合が多いです。
職員は担任として、子どもたち全体を見ます。
フリーや補助まで正規職員でまかなえている保育現場は少ないと思います。
パート保育士やパート幼稚園教諭が発達障害を理解しているかというと、その差は大きいと思います。
ある程度の経験があれば「あれ、この子はもしかしたら発達障害かもしれない」と感じることはあります。
診断できるのは、医師だけなので、その子が発達障害なのかは判断出来ません。
診断が出ても医師が関わり方を教えてくれる訳ではありません。
発達障害に関する専門職
- 臨床心理士
- 臨床発達心理士
- 音楽療法士
- 作業療法士
- 言語聴覚士
- 特別支援学校教諭
- 社会福祉士
- 精神保健福祉士
など。もちろん療育の勉強をした保育士や幼稚園教諭もいますが「発達障害」と一言でくくっても、その種類や特徴は幅広くその子にとって良い関わり方が1人1人違います。
発達障害の研修や勉強会が増えたのは、ここ最近のことです。
と、言っても研修に参加するのは正規職員が多く、子どもを抱えたパート職員などは仕事以外で研修に行く時間はなかなか取れず、理解が遅れてしまうという現実があります。
東京には療育施設が公私のものともたくさんあるそうですが、私が住んでいる地域には発達障害の子が通園できる施設も少なく、理解の進みも遅いように感じます。
加配保育スタート
Fくんとの出会いから数か月、毎日がボロボロでした。
きっとFくんにとっても、最悪な数か月だったと思います。ごめんなさい。
日々の奇声と体当たりと、パニック。どうしていいか分からなかった。
その頃勤めていた園は発達障害への理解はなく、クラスにいるとほかの子に危害を与えないように、保育の邪魔にならないように「なるべく外遊びをしていてください」と言われました。
その言葉は衝撃的で、悲しかった。担任の先生は、Fくんと関わろうとはしませんでした。
1日中、その子と園庭で遊んでいました。一緒に…といっても信頼関係がなかなか結べない。目が合わない。会話ができない。
2人でいるのに、1人ぼっちの気分でした。きっとそれはFくんも。
そんな最悪な状況から抜け出すきっかけをくれたのは、その地域の園を時々巡回していた特別支援学校の先生でした。
Fくんとの関わり方で参考になったことは、発達障害児だけでなく普段の保育や子育てに参考になることがいっぱいでした。
発達障害の子に伝わる方法は、どんな個性を持っている子にも当てはまる方法でした。
特別支援学校の先生との出会い
園に定期的に来てくれた特別支援学校の先生は、T先生という男の方でした。
定期的といっても、数ヶ月に一回くらい。
定期的に来る先生も時々変わっていました。
Fくんが入園した頃に、回ってきてくれた先生はT先生。
T先生はFくんの様子を、少し距離を置いて静かに見ていました。
奇声や物や人への体当たりなどには反応せず、何かが出来た時などプラスの行動に「お、Fくんすごいね」と静かに声を掛けていました。
わたしになかなか心を開いてくれなかったFくんが、初対面のT先生にはすりすりと寄って行くのです。ショックでした。
発達障害を持っている子は特に感受性が強く、相手が自分に対して持っている感情に敏感な気がします。
わたしの中に「Fくんとの毎日辛い」「楽しくない」という気持ちが潜んでいることを、感じ取っていたのでしょう。
時間をかけても距離が縮まなかったのはわたしに問題があったのだと、今なら分かります。
T先生が最初にしてくれたことは、保育の見直しではなく、わたしの心のメンテナンスでした。
取り組んできたこと、頑張ってきたことに耳を傾けて「大変でしたね」「頑張りましたね」と共感してくれました。
その時は良いと思っていたFくんへの対応はダメダメなことばかりだったと、ずいぶん後になって気づきました。こだわりを諦めさせようとしたり、静止を多くしたり。
Fくんが嫌がることを、Fくんのためだと思ってしていました。
T先生は、わたしの保育を否定することはありませんでした。T先生はFくんにもわたしにもダメな部分について反応せず、プラスの行動にのみ声を掛けてくれていたのです。
出来そうなことをひとつだけ
あまりにもボロボロだったわたしと、そしてFくんを心配して月に一度の訪問をしてくれることになりました。
訪問のたびに、わたしの話を「頑張っているね」と声を掛けてくれ、Fくんへの対応で困っていることに対して「こういう方法があるよ」と毎回一つだけ目標をくれました。
最初にもらった目標です。
Fくんが走り(逃げる)、その後ろを追うという関係性を変える
どうしたらその関係性を変えられるのか。
それは、Fくんの行こうとする気配や気持ちを察して

と共に動くようにします。
はじめは「テラス(お気に入りの場所の1つでした)行きたいの?」と聞くと、止められると思ったか顔をこわばらせていました。
「いいよ。一緒に行こう」と声を掛けると、表情がほぐれました。声の掛け方で、こんなに関係性が変わるのかとハッとしました。
Fくんに対して何も出来ないと思っていた自分が、T先生のアドバイスで少しずつ前に進むことが出来ました。